「王様トマトと私」

私の家は江戸時代から続く専業農家でトマトは父の代から作り始めました。
関西でトマトといえばタキイ種苗(株)の「桃太郎」が有名ですが、うちでは
差別化を図るため(株)サカタのタネの「瑞健」をはじめ「サンロード」、
さらに現在の王様トマトシリーズを品種選定しています。
その特徴といえば桃太郎のピンク色に対して、イタリアを思い出すような
情熱の赤色。完熟もぎりでリコピン2倍、グルタミン酸1.4倍の旨み成分を
あわせもつ機能性野菜のはしりとして当農園ではメイン作物として生産、
販売しております。
また王様トマトシリーズはメーカー指定の7品種(平成28年現在)があり、
栽培時期にあわせて使い分けをしています。
すなわち冬春の加温栽培には抜群に味が良い「ごほうび」、夏秋の暑い時期
には硬玉の「麗夏(れいか)」、病気が多く発生する年には耐病性がある
「麗旬(れいしゅん)」など毎年3月〜10月まで半年の期間をリレーしながら
出荷をしています。
平成14年。親元の修行を経て独立を機にトマト温室(1100?)を着工。
以来14年間トマトを栽培していますが開始3年後にその事件はおこりました。

トマト黄化葉巻病

平成14年頃から国内各地で急激に発生・蔓延し、兵庫県内においても平成17年に初発生して以来トマト農家においては最重要防除項目にあげられる新型のウイルス病です。媒介はシルバーリーフコナジラミという体長1?の小さな虫。
感染すると生長が止まり葉も委縮し実がつかなくなります。治療薬はありません。感染株は被害拡大防止のために、抜き取り後に焼却が指導されています。

ヤスオ農園でも例も漏れず平成17年に初発生が確認されました。その2年後つまり平成19年には育苗段階で感染、そのまま温室内で大発生を起こし、植え付け本数の半分以下を失うという非常事態にまでなってしまいました。当時は毎日トマトの様子をみにいってこれも感染、あれも感染と印をつけては実がついているまま株を抜き取る作業をひたすらにしていました。あれほどトマトの巡回が憂鬱になった年はありませんでした。それでも出荷、収入を得らなけば生活できません。折しも一年前に結婚、そして翌年には長女ができたばかり。踏ん張らないと。踏ん張らないとあかん!と自分に言い聞かせました。

翌年から虫の活動が落ち着く10月頃を育苗期にあて、ハウス全体に捕獲用粘着テープを張り巡らし、防虫ネットを目の細かいのに変え、土中の虫の卵を殺すために夏の暑い時期に土壌消毒を行い、更によりリスクを減らすために抵抗性品種の栽培法を勉強して導入を行いました。それでも毎年何本かは発生して、また3〜4年おきに大発生するサイクルがあります。それらの情報をいち早くキャッチして対策をたて被害を最小限に抑えるように心がけています。「
トマトと二人三脚」。以後10年はまさにそうでした。

よくトマトの作り方をきかれると私は「子供を育てるように」という表現を使います。
つまりは、甘やかすと甘やかしたトマトの味になり、厳しくすると厳しくしたトマトの味になります。
「がっつり温室育ち」よりは「適度に厳しい環境」を与えたほうが味に深味を増すことができます。
日々の管理作業とは非常に細分化され、芽かき、葉かき、誘引、病害虫防除、ホルモン処理、摘花、摘果、水管理、肥培管理等々・・・生育期間中は休みなく作業は続きます。まさに「子供を育てるように」なんです。

トマト栽培をはじめてから高糖度で甘いフルーツトマトを作り上げるのには親が土台をつくってくれたおかげで自身でもそんなに時間はかかりませんでした。水分ストレスに塩分ストレス、日照、温度、湿度、いろんな要因が複雑にからみあう環境下でそのときのベストな状態を想定し、そこにもっていけばトマト自らがフルーツトマトに化けるのです。
「なんで水あげへんの?」と枯れる寸前まで水を切り、栄養を樹より果実に大部分をまわすスーパーサドステッィクな栽培方法。一時は糖度12度まであがるときもありましたが、実はその年の収量はいつもの3分の1でした。

「これではあかん。経営的にあかん」
樹勢を維持しつつ、収量も維持しつつ、且つ糖度をあげる方法はないか。大玉でも甘いトマトはできないか。答えは管理の細やかさにありました。いま、このトマトの樹は何を求めているのか、どうしてほしいのか、いま自分にできることはないのか。考え続けて16年。ついに目標のひとつでもあったあの賞をとらえました。

平成27年7月某日。神戸農業改良普及所から一本の電話がかかってきました。
「憲太郎さん、えらいこっちゃ。一等やで、大臣賞や!」
先日行われた兵庫県ハウストマト研究会のトマト立毛(たちげ)品評会に出品したうちのトマトが一等特別賞第一席
「農林水産大臣賞」に選ばれたという内容でした。
この品評会は50年近くの歴史があり、兵庫県内有力のハウストマト農家最高峰を決める年に一度の大きな品評会です。
その中の頂点はトマト農家なら誰もが憧れる存在であり、また生涯に一度とれるかどうかの遥か遠い存在でもありました。
果実の品質はもちろん、植物草姿、肥培管理、病害虫管理および収量性の期待の5項目すべてにおいて高得点をとらないといけなく初参加の平成19年度はボロボロの結果になりました。そして少しずつ栽培に工夫を重ねて味に深みをのせ3年後の平成22年度に農業技術センター所長賞。平成26年度に兵庫県知事賞を授かりました。あと一歩あと一歩と近づき、ついに頂点の農林水産大臣賞。連絡を聞いたときは頭が空白になり、時が止まった気がしました。ふぅ、と息を吐いて「やった。よっしゃ!」とガッツポーズをとりました。そして「ありがとうございます!!」そう、大きく返事しました。

7月下旬神戸市西神文化センターにて表彰式。11月23日明治神宮にて農林水産祭参加。
平成27年度は全国で農業、園芸、畜産など各部門あわせて500名余の大臣賞受賞者が選ばれ、そのうち兵庫県から7つの個人・団体が選ばれて個人はヤスオ農園のみ。さらに上の天皇杯は授かることはできませんでしたがこのような素晴らしい式典に参列でき会場内で素晴らしい方々と同じ空気を吸えただけでも感無量でした。大臣賞はゴールではなくスタート。
皆さんから支えられながらのトマトづくり。
ヤスオ農園ブランドその1「王様トマト」。
王様の名に恥じることなく、美味しいトマトを消費者やお店にお届けしたい気持ちで生産・販売していきたいと思います

参考文献:安尾憲太郎、2016年9月〜2017年2月、
「月刊ヤスオーランド第1話〜第4話」、
RIPPLE KOBE ブログ http://ripplekobe.tumblr.com/